「ロープ」から一年。
ようやくNODA・MAPの「キル」を見てきました。
「キル」は初演再演で何度も、そしてビデオでも何度も見た非常に大好きな作品なのですが、
あまりにも何度も見たのでもう見飽きたという風に思い込んでいて、
なかなか見に行くまで腰が重かったのですが、
十年ぶりくらいだったせいもあって、
全く演出変わってないにもかかわらず、新鮮な気持ちで楽しめました。
やはり尊敬すべき作品です。
初演の際に、それまで見たことのない演出表現に驚愕した日を思い出しました。
僕はよく野田かぶれだと巷で批判されますが、
あらためて「キル」を見ると、
いかにモロ影響をこうむっているかがわかります。
作ってる際にはそれほど自覚はなくとも、
あらためて恥ずかしげもなくマネをしているんだなと気づかされます。
その後期野田さんの演出方法の核心が「キル」には満載されていて、
その後の作品と比べても、一番濃密に前面に出ている作品だと思います。
そうそう。こういう風な考え方で演劇を演出していくんだということを、この作品で学んだんだ、
と感傷に浸りました。
まあ、ものは言いようですが、
マネしてるというよりは継承してるつもりでやってるんですけどね。
ちなみに作家としては前期野田さんの方を尊敬してます。
「キル」の凄みはやはり演出です。
と言いつつ、
野田さんというのは自分にとってはアメリカみたいな感じだなといつも思います。
パンフの冒頭文で、近頃流行の等身大の芝居を痛烈に批判していて、
それは僕なんかはもう大歓迎な意見ではあるのですが、
やっぱり、資本的にも圧倒的な力を持つ大国がそういうこと言うと、
何か、何言ってんだって反感持つ人がいてもその人の気持ちもわかるような気がします。
僕なんかはもうどうあがいてもその大国の影響下の小国でしかないんだけど、
グローバルって考え方への対抗の意地はありまして、
わずかながらも固有の文化もあるのです。
そういう風にやってる同じような劇団もいっぱいあるわけで、
僕も同じくざっくりと等身大の芝居は大嫌いですが、
それはそれで、いろいろあって、一括にくくってしまうようなものでもないし、
なぜそういう風な芝居が多いのかってことが興味深い問題です。
そもそも一つ一つの芝居にいろんな色はあります。
そのグラデーションのわずかさを嘲笑える立場は確かに勝者のポジションなのでしょうが、
そういうことも含めてアメリカみたいに思えます。
「キル」が作られた時から二十年近く。
本当に素晴らしい作品ですが、
それはもう伝説であって、
観劇としては、ただ懐かしいということに尽きるんです。
でも僕なんかは結局、イラク侵攻は酷いと言いながら、
まあ、マクドはさすがに余り行かなくなりましたが、
あの新宿西口ですげえ列ができてるドーナツなんかは、
本当に夢のようにおいしいと思ってバクバク食いますし、
スタバで一服したりもします。
何より毎週アメリカ大衆文化の権化、WWEプロレスを週四時間欠かさず見てます。
勉強だとすら思っています。
僕にとってアメリカとはそういう意味です。
アメリカどっぷりと言えば、前にも書いたかもしれませんが、
僕は昨今のアメリカのTVドラマの大ファンです。
そのためにケーブルテレビに入ってます(あとWWEのため)
24、プリズンブレイク、LOST。
最近はHEROESが本国で大ブームだって言うんで勢い込んで毎週チェックしてますが、
LOSTほどではない。
そのLOSTもシーズン3で失速。
しかし侮れぬ帝国の底力。すげえのが海を渡ってやってきました。
「バトルスター・ギャラクティカ」
これ昔あった「宇宙空母ギャラクティカ」ってSFのリメイクとまでいかないけど、
それを根底にまた全く新しい現代に合わせた物語を創造したものです。
これは正直凄いレベルです。
アニメの「マクロス」を実写版にして、大人向けに深く掘り下げたような感じです。
宇宙戦闘シーン含め映像のクオリティも相当なんですが、
物語が凄い深い。
遠い未来に人類がロボット達の反乱によって滅亡寸前に追い込まれ、
生き残ったわずかな人類が巨大宇宙船団を組んで逃げ回るっていう、
その大枠自体は「マクロス」そのもので、少し古臭いんですが、
そこから派生する細かいドラマが哲学的で深遠です。
登場人物の造形も興味深くて、
とにかく本格派の気合が感じ取れる作品なのです。
LOSTも24もそうですが、このギャラクティカでも、
基本的設定として戦いはすぐ身近にあるけども、
敵の存在が全く見えないというコンセプトがあります。
何を考え、何を目的とし、どこに潜んで、どこから現れるのか。
そして時には身近な存在の人が、突如潜伏した敵として本性を現す。
アメリカの人々が実感として今最もシリアスに反応する枠組みなんでしょう。
日本人にはそういう見方が根本的にはわからないでしょう。
だから、こんな難解な物語がなぜ大衆のブームをつかむのか、
いつも不思議に思うのですが、向こうではそれなりのことなのです。
そして日本において大衆のブームをつかんでいるテレビドラマや芝居やらは、
今の日本の実感のありか、それなりの姿なのだと思います。
近いうちにDVDが出ると思います。
ぜひおすすめです。