稽古場に向かう途中の坂道、閑静な住宅街の中にぽつんとあるカフェ。
稽古前の劇団員が昼食をとって行くことも多い。
その日もみちると坊さんが同じテーブルに着いていた。来たのは
バラバラらしく、もう食べ終えてそろそろ席を立とうとするみちる
とまさに食事中の坊さん。
坊薗が更新している「小軍団」稽古場レポートのプロフィールページ
が断りもなく自作の坊薗人形の写真とコメントに変わっていたので、
「坊さん個人のブログじゃないんだからさあ、どういうつもりなの?」
と問いつめると、「えっ?いや、私全然わかりません、なんでだろう、
えっ?変わってたんですか?」とシラを切る坊さん。
「管理パスワード知ってるの坊さんだけじゃん、じゃ誰がやったわけ?」
「いや〜、わかんないけど、え、不思議〜、なんだろ、誰だろ〜」
今更席を立つわけにもいかず、ワタシハココニイナイイナイと呪文を
唱えながら小さくなって息を止め、ひたすらモメ事の終わるのを待つみちる。
そこへ鳴り響く電子音。
毎朝聞こえる鳥の声と見慣れた自室の光景。
なんだ、夢か…。
・・・ってな夢見てさー、全然寝た気がしないんだよー。と坊さんに話すと
えー私ってそんなキャラだと思われてるのかなー心外!位なことを言われる
だろうと思っていたら、「えー、なんでわかるんですか?うそー、私ほんと
そういうしらばっくれ方するんですよー」と、おめーいくらなんでも子供
じゃねーんだからよーと言いたくなるような実話しらばっくれエピソードを
聞かされました。
坊さんと今井克己の二人は他の人とは違うシーンに出てるので、皆が稽古
してる間は稽古場の外の通路なんかで自分のせりふを憶えています。
ニヒルでクールな容貌とは正反対に、客観性というものが全く介在しない
超絶主観的かつムダに楽観的な坊さんの「私って○○なんですよね」という
自己分析話に見せかけた妄想話を聞いている横で、今井が自分のせりふを
延々繰り返しています。
「坊さん、それほんとに病気だよ」「いやいやいや」「病院行った方がいい
って」「いや、でもホラ私結構バランス取れてるから」「だからそれ自分の
妄想でしょ、おかしいよその根拠のない楽観主義」「いやいやいや」
内容はないに等しいとは言え、坊さんと話しながら耳に入ってくるのを聞い
てるだけでもそろそろアンタのせりふ私も言えるぞという位繰り返し繰り返し
練習している今井。
前日の初通し稽古でせりふが出て来なかった今井に、芝居の出来については
松村さんや演助の康子の範疇だけど、約3年ぶりにカムカム出るのにせりふ
憶えてないってどうなんだよと思い、アンタもっと死ぬ気で頑張らなきゃ
みたいなことを言いました。せりふ昨日もらったばっかりなんだよとか言葉が
難しいんだよとか言い訳する中で、ゆっくりならちゃんと言えるんだよ!とか
ワタクシ言われまして。
・・・芝居のスピードで言えなきゃだめだろ、せりふなんだから。
正直圧倒されたのと面倒くさいので、本人には実際言わなかったけど、
その時栄治郎よりれみよりこの子が一番重症だわーと思ったよーという話から
坊さんと今回「小軍団」に出演している松村病棟の患者さんで誰が一番重症か
という話になりました。
「大自然」に引き続き、インタビュー形式の稽古場レポートは虚実ないまぜで
実際のインタビューの内容に忠実ということより面白いということを重視してる
ので、実際に私が言ったことを坊さんが主観的にとって書いているということで
構わないと思って読んでたんだけど、私が初めて知る稽古中のエピソードが
たくさん私の口から語られてて、ん?これまた夢か?ほんとに私言ったのか?と
奇妙な感じに襲われました。
私が本当に言ったことが正確に書かれてるのは一箇所だけなので、読んだ劇団員
の皆さんはいちいち落ち込んだりしないように。
まことにまことにあなたがたに言いますけど、優れているとか、純粋であるとか、
天然であるとか、なんらかの価値ゆえに愛されてるわけじゃないのですよ。
迂遠過ぎる例えで伝わらないとは思うけど、ダーウィンの言う「進化」が、何か
予め存在する「優れた」もしくは「進化した」という概念や目標のようなものを
目指しているのではなく、後付けの全肯定として、今ここにそのカタチで存在
するってことが、適応してる、最適な進化を遂げてるとみなされるってことで
あるよーに、今カムカムにいるってことが必要とされている、愛されていると
いうことなのです。
ものすごくはしょって今必要なことだけ言うと、人としてしっかりしてくれ
とかは望んでないから、せりふ憶えて、ちゃんと松村さんの言う通りやって
ちょうだいってことです。
稽古場に来てくれた松田かほりさんが、「松村くんにとってこれは山登りなんだね」
と言っていました。「修行であると同時に癒し」だと。
前の日にあんまりお利口でない動物くんたちを飴とムチで使って木を切り出し、
材木を運んで一日8時間かけて建てたお家に、さあ今日はこれとこれを足そうと
思って稽古場に来てみると、動物くんたちがめーめーうれしげに昨日苦労して
自分達が建てたお家を食べちゃってるみたいなことの連続ですから。
まあそうは言っても、今現在拾って下さいって書いた箱に入れて道端に置き去り
にされたり、保健所に連れてかれたりしないでまがりなりにも松村牧場にいるって
ことは多分必要とされてるってことなのです、癒しとして。
ある日、動物くんたちが集まってうれしそうにもそもそ話している所に遭遇。
「松村さんのカムめくり(註:7/22のもの)読んだ?」「読んだー」「『待とう』
『信じよう』って・・・」「私あれ読んで笑っちゃったよー」
おーまーえーたーちーはーわーらーうーなー。
さすがにこれは口に出して言ったけど、そして皆一応神妙な顔をしてたけど、
多分「なんか怒ってる」ってことだけがわかってて何で怒られたのかはわかって
ないんだろうなあ。